COLUMNコラム

SNSの普及によりデジタル広告が飽和するなか、リアルな体験を通じたプロモーション手法が注目を集めています。
一方で、展示会やイベントの開催数が増加したことで、リアルプロモーションにおいても「印象に残らない」「競合に埋もれてしまう」といった課題が顕在化し、従来の出展手法だけでは差別化が難しくなりつつあります。
こうした状況のなかで重要性を増しているのが、体験を通じてブランド価値を実感できるリアル空間の設計です。
本記事では、以下のポイントを中心に解説します。
・デジタル・リアルプロモーションにおける差別化の課題
・海外のブランディング戦略と事例
・TSP太陽が取り組む「建築ブランディング」

デジタル広告は、導入のしやすさと運用の柔軟性から急速に普及しました。しかし、その手軽さゆえに多くの企業が参入し、現在では“他社との差別化が難しい”という状況が生まれています。
実際、顧客獲得単価やクリック単価の上昇、クリック率の鈍化が指摘されており、デジタル広告では費用対効果が見えにくくなりつつあります。また、デジタル上で完結するコミュニケーションでは、ブランドの背景や思想までを十分に伝えきれず、価格や機能といった要素での比較に偏りやすい点も課題として挙げられます。その結果、「認知は取れているが、ブランドとして選ばれない」という状況に陥るケースも増えています。
デジタル広告で起きている差別化の課題は、リアルプロモーションにおいても同様に広がっています。
展示会やイベントが増加する中で、「出展しても印象に残らない」「競合に埋もれてしまう」と感じる企業は少なくありません。調査では、展示会などの単発出展について「印象が定着しにくい」と感じている企業が52%、「競合が多く差別化が難しい」と回答した企業が50%にのぼっています。
認知は得られても、ブランドとして記憶に残らない状態が、リアルプロモーションでも起きています。その背景には、日本のイベント空間が機能性や運営効率を優先して設計されてきた歴史があります。結果として、体験としての設計が不足し、ブランド価値を伝えきれないという課題が浮き彫りになっています。
だからこそ今、リアルプロモーションには「空間でブランド価値を伝える視点」が求められています。

海外ブランドが実践する建築によるブランド体験
デジタル・リアル双方で差別化が難しくなる中、海外では「空間そのものをブランド体験として設計する」動きが広がっています。
日本では、イベント空間が「施工」や「仮設建築」として扱われることが多く、機能性やコストを重視した設計に偏りがちです。安全性や効率性を重視する一方で、空間を通じてブランド価値を伝える発想は、まだ十分に浸透しているとは言えません。
一方、海外では「空間=ブランドを体験する場」という考え方が一般的です。建築や空間演出は、企業のメッセージや思想を伝える重要な表現手段として位置づけられ、イベント会場自体がブランドを体感させる戦略的メディアとして機能しています。
そのため、どのような世界観で空間を設計し、どのような体験を来場者に届けるかがブランド戦略の中核となっており、イベント空間は単なるPRの場ではなく、ブランド印象を決定づける重要な接点として扱われています。
以下は、海外ハイブランドが実践する空間を活用したブランディングの代表的な事例です。
・開催: 2015年、ニューヨーク
・コンセプト: 巨大な靴箱をモチーフにしたポップアップストア
・特徴: アプリ連動によるデジタル×リアルの購買体験
・効果: 短期間の開催ながらSNSを中心に話題となり、ブランドの先進的イメージを強く印象づけた
・設計: ザハ・ハディド
・形式: 世界各地で巡回展示
・特徴: 建築そのものをブランドの哲学を感じるアート作品として表現
・効果: 「シャネル=芸術と革新の象徴」というブランド価値を強化。建築が”ブランドを語る”成功例として広く知られる
・コンセプト: ブランド哲学を空間で体現
・特徴: 製品スペックの説明ではなく、ブランドストーリーの空間化
・効果: 来場者の購入検討率が従来比+42%向上※4
【注釈】
※1 NIKEが2015年にニューヨークで展開したポップアップストア。巨大な靴箱をモチーフにした建築デザインと、アプリ連動の展示により、デジタルとリアルを融合した新しい購買体験を提案。
※2 シャネルが建築家ザハ・ハディドに依頼し、世界各地で巡回展示した移動型アートパビリオン。建築そのものがブランドの哲学を体現する事例として、建築ブランディングの代表例とされる。
※3 メルセデス・ベンツが展開するポップアップ型のブランド体験施設。従来の試乗会とは異なり、ブランドの歴史・哲学・価値観を空間全体で表現することで、来場者との深いエンゲージメントを実現。

海外で一般化している、空間をブランド体験の場として捉える取り組みは、今後日本でも拡大していきます。
その際、従来のように単に会場を施工するだけではなく、ブランドの価値や思想を空間として表現し、来場者に体験として届けることが、イベント空間デザイン会社にとって重要な役割となります。
こうした変化に対応するため、TSP太陽が提唱する「建築ブランディング」は、ブランドを“建築する”発想に基づくアプローチです。企業の価値や世界観を空間設計に落とし込み、来場者が体験を通じてブランドを理解・共感できる場をつくります。
イベント空間を単なる展示や演出にとどめず、ブランド価値を伝えるメディアとして昇華させることで、体験価値を高め、他社との差別化を実現します。
差別化のためのブランディングにおいて重要なのは「想起(※)」です。
人は、感情をともなう体験ほど長く記憶に残り、その記憶の優先順位が高いほど「想起」されやすくなるといわれています。そのため、驚きや感動を伴うイベント体験を通じてブランドを印象づけることは、ビジュアル広告以上に高い効果を発揮するといえます。
イベント空間は“その場限りのもの”と捉えられがちですが、実際にはそうではありません。来場者の体験はSNSや口コミを通じて拡散され、未参加層にも波及します。その結果、体験の記憶や評価が残り、ブランド想起の向上につながります。
さらに、空間や体験コンテンツは写真・映像・デザインとしてアーカイブでき、次回以降の企画にも資産として活用できます。
つまり、建築ブランディングを意識したイベント空間は、視覚的・体験的なインパクトを通じて「想起」を促し、企業にとっての資産として蓄積されていきます。
【データで見る体験の効果(※)】
・イベント体験者のブランド想起率:+35%向上(平均)
・イベント体験者の購買率:未体験者の2.5-3倍
・イベント後のブランド検索数:+120-180%増加
※ブランディングにおける「想起」:特定のニーズや状況に直面したときに、ブランドを思い出す(想い起こす)こと
※データで見る体験の効果(注釈)
*化粧品体験型イベント後のブランド想起率向上データ事例を基に算出(海外事例)
*体験マーケティングの一般的効果。ブランド体験施設では購入検討率+42%を記録
*スマホ・PC製品発表会等の事例を基にした推定値
建築ブランディングを意識したイベント空間設計において、注目すべきソリューションが イベントアーキテクチャ です。
イベントアーキテクチャ とは、ブランド価値そのものを体験できる、時間限定のユニークな空間メディアを指します。
従来の機能重視の仮設建築とは異なり、デザイン性とカスタマイズ性を兼ね備え、柔軟な設営が可能です。そのため、イベント空間における体験価値を最大化できます。
空間設計で活用することにより、ブランドの価値観や世界観を来場者に直感的に伝え、記憶に残る体験 を提供することが可能です。
つまり、イベントアーキテクチャ を取り入れたリアルプロモーションは、単なる一過性の施策にとどまらず、持続的なブランド価値の浸透や顧客ロイヤルティの向上につながる、戦略的なソリューションとして活用できます。

リアルプロモーションが重視される今、企業が実施すべきは、単に来場者を集めるだけのイベントではなく、ブランド価値を理解・体験させ、記憶に残る空間設計です。
海外では既に、空間をブランド体験の場として捉える取り組みが一般化しており、日本でも今後同様の考え方が求められます。従来の会場施工だけではなく、ブランドの価値や思想を空間として表現し、来場者に体験として届けることが、イベント空間デザイン会社に求められる重要な役割となります。
TSP太陽の「建築ブランディング」は、ブランドを“建築する”発想に基づき、企業の価値や世界観を空間に反映します。単なる展示や演出にとどまらず、来場者がブランドを理解・共感できる場を提供することで、イベント空間を他社との差別化を促す戦略的ブランドメディアとして活用することが可能です。