COLUMNコラム
地域の“物語”を伝える光のクリエイティブの軌跡
イベントコンサルティング・プロデュース企業として長年培ってきた企画・設計・施工の総合力を活かし、地域に根差した“物語”を光の演出を通じて伝える、TSP太陽の空間演出事業。ナイトタイムエコノミーを創出するイルミネーション・ライトアップ・プロジェクションマッピングは、近年、日本全国で課題となっているオーバーツーリズムに対策を講じる側面からも注目を集めています。
そんな中、2024年に当社の空間演出ブランド「ELEMENTS(エレメンツ)」がプロデュースした『水都大阪・見守り隊イマーシブクルーズ』が「日本空間デザイン賞2024」においてデザイン賞に入賞 、「第43回ディスプレイ産業賞(2024)」の余暇・観光施設部門でもディスプレイ産業優秀賞に選ばれ、W受賞となりました。また同じく当社が手掛けた『ARTBAY ILLUMINATION 2023 MIRRORBOWLER “トウキョーツインクル”』も「第43回ディスプレイ産業賞(2024)」のディスプレイ産業奨励賞を受賞するなど、長きに渡り多数の賞を受賞し、そのクオリティや芸術性において高い評価をいただいています。
「ELEMENTS 」のメンバーとして、プロジェクションマッピングや光のアートなどを通じ十数年に渡ってこれまでにない“体験価値”を創出してきた TSP太陽 企画制作部の木村寿行は、「入社当初は光の空間演出に携わるなど、夢にも思っていなかった」と語ります。施工から企画、そして演出の世界へとキャリアを広げてきた軌跡と、光の空間演出に込める思いとは――。
バブル期の1991年に入社し、施工部門で4年間、施工管理として現場を経験しました。その後、保有していたCAD、DTPスキルを活かしたいと設計部門への異動を希望し、海外製テントの導入などの商品開発に携わった頃、イベント創造の起点である企画の仕事を経験したいと申し出て企画制作部へ。空間演出に舵を切るきっかけとなったのは、2004年に行われた大阪城でのイベントでの出会いでした。「イベント内のひとつのコンテンツとして、当時はまだ珍しかった、お城の石垣に映し出されたプロジェクションアートに強い衝撃を受けました。」と木村は語ります。
創意工夫の演出技術と高いアート性を融合し、十数年に渡り全国各所で光の空間演出を手がけてきた企画制作部の木村寿行が今後の展望を語る。
創意工夫の演出技術と高いアート性を融合し、十数年に渡り全国各所で光の空間演出を手がけてきた企画制作部の木村寿行が今後の展望を語る。
2008年のリーマンショックの頃、イベント業界も打撃を受けて仕事がなくなったことをきっかけに、木村はイルミネーションのプロポーザルに挑戦することを決意。「大阪城のイベントのプロデューサーから、プロジェクションアーティストの先駆者である長谷川章氏をご紹介いただき、企画提案を行なって受注となり、万博記念公園の太陽の塔に光のアートを投影することとなりました。
当時は多数の電球によるイルミネーションが主流で、プロジェクションマッピングさえも行われていなかった頃だったこともあり、100万枚におよぶ鮮やかなデジタル画像が毎秒変化するという斬新な光のアートは大きな話題となりました。」以後、アーティストとの連携が深まり、業界内で独自のネットワークを構築できたことで高いクオリティを担保することが可能に。「当初はクリスマスなどの冬のイベントシーズンに限られていた受注が、季節を問わず通年にわたってご依頼いただけるようになりました。」と話します。
「太陽の塔」の光の演出は大きな話題となり、毎年の恒例イベントとなる。
『ミラーボーラー』の初期の頃の作品は森の中で幻想的に異彩を放っていた。©MIRRORBOWLERS inc.2025
『ミラーボーラー』の初期の頃の作品は森の中で幻想的に異彩を放っていた。©MIRRORBOWLERS inc.2025
当社の空間演出を特徴づけるインスタレーションアート集団『ミラーボーラー』との出会いは、2002年に木村がプライベートで赴いたロックフェスティバルでのこと。「森の中にミラーボールを散りばめた幻想的な演出に魅了され、ロックのステージ以上に惹きつけられた」という木村は、「このアート集団がもっと大きな舞台で活躍できるようにサポートしたい」と10年近くその日の感動を持ち続け、2011年の協業にこぎつけます。
“宇宙と和式美”をテーマに数百のミラーボールを使って光と反射の空間を創り出す『ミラーボーラー』は、グラフィックデザイナー、写真家、照明技師、鍛冶職人などで構成されたアート集団。その高い芸術性に、数々のイベントで培ってきた当社のプロデュース力が掛け合わされることで空間演出の可能性が一層広がっていきました。
当時、光の空間演出事業は木村の業務の1割に留まっていましたが、やがてイベント事業との配分が逆転し、現在では業務のすべてが空間演出事業になるまで事業が拡大しています。
演出手法もさらに進化していきます。ストーリーや開催地の要素を盛り込める「プロジェクションマッピング」が知られ始めたのは2011年頃のこと。木村は、当時、皇室行事で協業していた企業との連携でプロジェクションマッピングをメインコンテンツとしたナイトイベントを立案。「東日本大震災を受け自粛モードが広がっていた関東では実行できず、関西でプロジェクトが進行していました。プロジェクションマッピングの普及とともに、演出の質も変化を遂げていきました。」と木村は話します。
実際に、平城宮跡の空間演出では、木、火、土、金、水からなる陰陽五行節や、東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武を指す四神などのモチーフ、シルクロードからの文化の伝来といった要素を取り入れることで、地域の歴史や文化に根ざしたストーリーをコンセプトに取り込み、独自の世界観を構築することができました。
地域の物語を盛り込んだ「プロジェクションマッピング(ウォータープロジェクション)」も初期の頃から導入し、注目を集めた。
平城京天平祭にて東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武といった四神をモチーフとした空間演出 ©MIRRORBOWLERS inc.2025
空間演出を構成する映像制作・映像投影・会場設営の業務の中で、映像投影と会場設営を担当するほか、当社ではコンセプト設計から深く関わり、数多くのアーティストと協業を行っています。
木村自身、40歳を越したあたりから「今までいかに日本の文化に興味がなかったのか」と気づき、盆栽や浮世絵などの世界に飛び込んでみたとのこと。盆栽教室や、浮世絵の展覧会で得たインスピレーションをもとに、企画を行なっています。
巨大な盆栽を運び込み、光の演出と融合させた試み。夜間だけではなく昼間も見応えのある演出となった。
陰陽五行の地・水・火・風・空の5要素から着想しネーミングを行った「ELEMENTS」 ブランドロゴ
陰陽五行の地・水・火・風・空の5要素から着想しネーミングを行った「ELEMENTS」 ブランドロゴ
2020年に、可能性の高い新規事業に対して予算化を行う「イノベーションチャレンジ」という社内制度が立ち上がり、木村は空間演出のブランディング化を提案しました。というのも、10年以上に渡り空間演出における実績の数々を積み上げてきたものの、空間演出に関する他社のような明確なブランドイメージはなく、イベント会社=“何でも屋”というイメージが拭えないという課題に直面していたからです。提案ではこれまでの実績と今後の構想が認められ、高付加価値のブランドイメージを構築することを目的に、光の空間演出に特化した社内ブランド『ELEMENTS』が立ち上がりました。
「過去をひもとき、未来を照らす」というコンセプトをベースに、ネーミングは、陰陽五行の5要素から着想。ブランドロゴにも5要素を表す5つの“E”が表現されています。ELEMENTSが手がけるのは、歴史・文化・風土を光の演出に落とし込むことで、地域資源の魅力を再発見する試みです。「このブランド化により、認知が促進され、ブランドとしての価値観を発信することが出来るようになりました。
2015年にDSA空間デザイン賞2014地域特別賞を受賞した際の一枚。クライアント様への品質やデザインの信頼性を高めるため、デザイン賞には積極的にチャレンジしていきたい。
2015年にDSA空間デザイン賞2014地域特別賞を受賞した際の一枚。クライアント様への品質やデザインの信頼性を高めるため、デザイン賞には積極的にチャレンジしていきたい。
また、そのクオリティを第三者の視点で担保するべく積極的に賞への応募を行い、2024年度までに38の賞を受賞しています。「今後は、後進のスタッフを育成しながら、国際的なアワードへの挑戦も行っていきたいです」と語る木村。
光の技術を駆使して、その土地の物語を鮮やかに表現するべく、唯一無二の演出で業界を牽引し、“記憶に残る空間を創造していく挑戦は続いています。
■「日本空間デザイン賞2024」および「第43回ディスプレイ産業賞(2024)」にてTSP太陽が企画・デザインしたアートイルミネーション2作品が3部門で受賞(プレスリリース)